TRAVEL AND ART

旅行と美術鑑賞のことばっかり考えてるブログです。

旧ソ連が没収したゴッホの絵画は元の所有者に戻らず

ナチスの行為には厳しいけど、旧ソ連の行為には?

ゴッホの絵画「夜のカフェ」。
ゴッホが家賃の支払いの代わりに1888年に描いたもので、本人曰く「わたしが描いた最も醜い絵の1つ」とのこと。

Le café de nuit (The Night Café) by Vincent van Gogh

旧ソ連政府によって持ち主から没収されてしまったこの絵。元の所有者の曾孫であるピエール・コノワロフという人物が所有権を長年主張していました。

しかし今年、その訴えがアメリカの最高裁で棄却されたそうです。

この絵は旧ソ連政府によってドイツの画廊に売られ、その後アメリカに渡り、あるお金持ちが買って母校のエール大学に寄贈しました。そのようなわけで、現在所有しているのはアメリカのエール大学。

所有権を主張していたコノワロフ氏は、パリ在住のフランス国籍の人物。

フランス人が、旧ソ連政府に奪われた絵の所有権を求め、アメリカで裁判を起こしたという今回の一件、、なんともややこしい。

結局アメリカの最高裁は、「当時のソ連政府がやったことの判断はしない」という理由でこの訴えを棄却したらしいのです。

このコノワロフ氏も可哀そうだなと思います。味方がいなかったのではと思うんです。フランスは関係ないし、現在のロシアは過去のことに関わりたくないだろうし、アメリカは絵を渡したくないだろうし。。

コノワロフ氏も、「絵画が返還されたらオルセー美術館に寄贈する!」とか言って、フランス政府を味方につけることはできなかったんですかね。。

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別の絵の所有権も主張

氏は別の裁判で、セザンヌが1891年に描いた「温室のセザンヌ夫人」という絵の所有権も主張していました。

itsartlaw.com

これは現在アメリカのメトロポリタン美術館に所蔵されている絵画ですが、こちらもコノワロフ氏の主張を退ける判決が下されました。理由は同じで、「外国政府がその国内で行ったことについては判断しない」ということだそうです。

アメリカの裁判所の言うことは分かりますが、素人の私からすると、ナチスに略奪された絵画の返還と何が違うの?といった感じです。

映画にもなりましたが、ナチスに略奪された美術品はその返還を求める申し立てが認められているのです。

golden.gaga.ne.jp

コノワロフ氏もこの映画と同じ弁護士に頼めば良かったのかも?

ナチス略奪絵画といえば

またナチスの略奪絵画といえば、2012年にドイツのミュンヘンのアパートで発見された約1240点にも及ぶ絵画。これらを所有していたのはコーネリウス・グルリットという人物です。氏の父親は美術商で、ナチスに協力してこれらの絵画を集めたらしいのです。

そしてグルリット氏の死後、遺言によりこの全ての絵画はスイスのベルン美術館に遺贈されることになりました。ところが、ナチス略奪絵画を1240点も受け取り、後に返還請求裁判などあちこちで起こされたらたまらんということで、ベルン美術館も受け取りに難色を示しているのです。

Kunstmuseum Bern, exterior view

(スイス・ベルン美術館)

当然ですよね。遺言という正当な手続きを経て入手したとはいえ、元々はユダヤ人から奪ったもの。そんな絵を展示するのはどうかと思いますよ。

 

ナチスにより略奪された美術品については、元の所有者および遺族に返却すべきとし、その手続きを国際的に定めた「ワシントン原則」というのがあるそうです。

この原則をもっと広い範囲に当てはめて考えることはできないのですかね。。ナチスでも旧ソ連でも、所有していたものを奪われた人の気持ちは全て一緒でしょうから。

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