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TRAVEL AND ART

旅行と美術鑑賞のことばっかり考えてるブログです。

「ミケランジェロ・プロジェクト」と「黄金のアデーレ 名画の帰還」

美術鑑賞豆知識 美術鑑賞豆知識-本・美術番組・映画

第2次大戦中のナチス強奪絵画の行方!?

公開中の映画「ミケランジェロ・プロジェクト(The Monuments men)」を見てきました。第2次大戦中、ナチスドイツによって強奪された美術品を奪い返すというミッションを課された、モニュメンツメンという連合国軍の特殊チームのお話。実話が元になっています。

miche-project.com

特殊チームといってもグリーンベレーのような最強軍団ではなく、美術史家や建築家、彫刻家など美術の専門家が新兵訓練を受けて、即席兵隊となって戦地に赴き、銃弾をかわしながら美術品を探し出すというストーリー。

ベルギー・ブルージュの聖母教会にあるミケランジェロによる聖母マリア像や、同じくベルギー・ゲントの大聖堂にあるファン・エイクの祭壇画などがお話の中心となっています。私は昨年末に、ちょうどこれらの作品を現地で見てきたところだったのですが、こんな裏話があったとは知りませんでした。現地で買ったガイドブックにも、モニュメンツメンについは書いてありません。

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実話が元になっていますが、ハリウッド映画らしくコメディタッチの部分もあり、最後は星条旗万歳的な終わり方で、エンターテインメント性が高く、見ていて楽しい映画でありました。無事聖母マリア像も祭壇画も元の場所に戻り、現在では多くの観光客に鑑賞されています。

現在のナチス強奪絵画の行方!?

そしてもう1本。こちらも現在公開中の「黄金のアデーレ 名画の帰還」。これはナチスドイツに強奪された絵画を、その所有権を持つ遺族が裁判を経て取り戻すというストーリー。これも実話が元になっています。

golden.gaga.ne.jp

このお話の中心となる作品は、グスタフ・クリムトの「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 Ⅰ」。オーストリア・ウィーンのベルヴェデーレ宮殿の美術館に展示されていた作品です。映画の主人公マリア・アルトマンの伯母がモデルとなっています。

Gustav Klimt 046

 

この絵はオーストリアのモナリザと称され、美術館の目玉となる展示品でした。約15年前、私もウィーンで見ることができました。下は当時のガイドブック。黄色で囲んだのがその絵です。美術館の紹介にも使われるほどの扱いだったわけです。

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そんな国宝級絵画の返還を求めた裁判。主人公は、“家族の唯一の形見”を取り戻すため立ち上がりました。そして困難を乗り越え裁判で勝ち、その形見は遺族の元へ戻されることになるという感動の結末。映画としてはとても感動的に描かれています。

 

しかし、ちょっとモヤモヤする点が、、。
ミケランジェロ・プロジェクトと同じく、美術品が所有者に戻されるという点では同じなのですが、そのクリムトの絵の行方になんか、、こう「??」な感情が沸き起こるのです。

このお話には続きがあって、裁判では「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 Ⅰ」とともにナチスによって奪われた以下の4枚の絵画の返還も認められました。

「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 Ⅱ」

Gustav Klimt 047

 

「りんごの木」

Klimt-Apfelbaum I

 

「ぶなの木」

Gustav Klimt 006

 

「アッター湖畔のウンターラッハの家」

Klimt-Unterach am Attersee

 

絵を奪還した遺族は、これらの絵をまとめて一般に公開することを望みました。元々展示していたウィーンのベルヴェデーレ宮殿の美術館も、再度“貸し出し”てくれるよう申し出ましたが、マリア・アルトマンによって断られました。そこでこれらの絵はまとめてオークションに出品されることになりました。

まあここまでは流れとして私も納得できます。まとめてどこかの美術館が買い上げ、そこで展示すればスッキリすると。

ところが、遺族が希望したのか、まわりの弁護士あたりが指導したのか分かりませんが、オークションで5枚まとめて売りに出す希望額が莫大なものになったのです。オーストリアでは国を挙げて買い取ろうと準備していたにも関わらず、金額が大きすぎて断念。結局誰も手が出せず、5枚まとめての買い手は付かずじまい。。

そこでこの遺族はなんと、バラ売りを選択したのです。

おいおい“家族の形見”だと言ってやっとのことで取り戻し、まとめて一般公開することを望んでたはずなのに、当初の目的はどうなっちゃったの?

バラ売りした結果、「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 Ⅰ」は、アメリカの化粧品会社エスティローダーの社長ロナルド・ローダーが1億3500万米ドルで落札。そして現在では、そのローダー社長がニューヨークに設立したドイツとオーストリアの美術品を主に所蔵している、ノイエギャラリーで展示されています。

http://www.neuegalerie.org/

「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 Ⅱ」は、個人により8790万米ドルで落札されました。その後、ニューヨーク近代美術館に長期貸し出しという形で展示されています。

Gustav Klimt’s Adele Bloch-Bauer II | MoMA

「りんごの木」は、3300万米ドルで個人により落札。これはプライベートコレクションとなっています。

「ぶなの木」は、4030万米ドルで個人により落札。これもプライベートコレクションになったようです。行方を捜しましたが、ドイツ・ドレスデンの美術館にあるとか、オーストリア・リンツの美術館にあるとかいう情報もありましたが、これらは同名の別の絵のようです。

「アッター湖畔のウンターラッハの家」は、約3140万米ドルで落札。これもプライベートに。

 

ふーん、、、以前はウィーンのベルヴェデーレ宮殿の美術館に行けば、一度に見られたものが、現在ではバラバラ。しかもプライベートコレクションになっちゃって、もう見られないのもあるのね。などと思ってしまう私は、理解が足らないのでしょうか。

オークションで得たお金は、ユダヤ人のホロコースト博物館のために使ったりその他慈善事業に使われたとのことで、ただ金儲けのために絵を売ったとは思いませんが、、なんだかなあ。

ナチスドイツがやったことは許されることではないし、美術品が元の所有者に戻ったということは良いことだと思いますが、まあなんというか、部外者がどうのこうの言える話ではないのですが、これで良かったのですかねえ?なんともモヤモヤが残る一件です。

 

参考

Glittering prize - Telegraph

Six Klimt paintings – Maria Altmann and Austria — Centre du droit de l'art